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事例紹介:ノートルダム清心 中・高等学校
図書館の段階的な改修で、生徒と本との出会いをサポート。
ノートルダム清心中・高等学校は「ナミュール・ノートルダム修道女会」を設立母体とし、名著『置かれた場所で咲きなさい』で知られる渡辺和子氏が学園理事長を務めていたカトリックの名門校です。2018年2月には念願であった「ノートルダムホール」が完成し、3階に中高生が共用する新図書館が誕生しました。新たにできた図書館で、本との出会いを今まで以上に支援したいと願う神垣校長と図書教育部の竹舛さやか氏に、新図書館に託した教育への思いをうかがいました。
「心を清くし愛の人であれ」という、教育理念を具現する「図書館」
本校の設立母体となる「ナミュール・ノートルダム修道女会」は、世界16カ国に活動拠点を持ち、姉妹校の数は120校に及ぶ世界的な組織です。日本での活動は戦前に岡山の清心高等女学校の経営を継承したことから始まります。そして1950年、戦争で大きな被害を受けた広島の地にノートルダム清心中学校を、3年後にノートルダム清心高等学校を開校しました。初代校長のシスター・メリー・コスカは戦時中に強制収容所に送られ、アメリカに強制送還されてなお、女子教育によって戦後の日本を改革したいという情熱を失うことなく、女子教育の発展と充実のために一生を捧げた方です。
本校は広島市街と瀬戸内海を遠くに臨むことができる小高い丘の上にあり、四季折々の美しい自然に囲まれていますが、この丘に立つと先人たちの願いが空気の中に溶けているように思えます。鳥のさえずりを聞きながら学習できるという貴重な環境は、生徒たちの感性や心の豊かさを育てる源でもあります。
創立70周年を2020年に控え、今年完成した「ノートルダムホール」は、音楽活動が活発な本校にとって念願だった本格的な施設です。建物自体は進路指導室や講義室も備える教育棟であり、3階には中高生共有の図書館を設置しました。本校を含むノートルダム清心学園の学校は「心を清くし愛の人であれ」という教育理念を共有しておりますが、その大切な「心」を耕し養う最たる場が図書館といえます。第一と第二の2室に分かれていた旧図書館が1つにまとまり、中高一貫教育に取り組む本校にふさわしい中高生共有の図書館の誕生は、本校に関わってこられた全てのシスターたちの教育への思いの結実でもあると思います。
温もりある平湯モデルの図書館で心の栄養をたっぷりと。
スペースが限られた旧図書館では、図書の増加に対して部屋の奥に高い書架を並べ対応したことで圧迫感のある空間ができ、生徒たちの足が遠のくエリアもありました。5万冊を超える蔵書を生かすためにも、一室に整備した新図書館が必要だったのです。そんな時に出会ったのが、独特の家具と空間づくりが魅力的な「平湯モデル」の図書館でした。その特長を一言でいうなら「本一冊一冊が生徒に近い」ということ。「書架」は木の温もりがあり、視線を遮らない高さのため、読みたい本が見つけやすいだけでなく館内が明るく開放的な空間になります。そんな平湯モデルの家具の導入を図りながら、段階的な改修による理想の図書館づくりを目指すことにしました。
入り口から入ったカウンター前のスペースに展示コーナーを設置して、生徒を図書館に招き入れるのも平湯モデルの特長の一つです。 展示のテーマ設定から書籍選びなどコーディネートを担当するのは、図書館の運営に携わる「図書委員会」のメンバーです。図書の貸出・返却などの当番から、展示を魅力的に見せるポップづくり、図書館便りなど広報物の制作、著名人を招いた講演会の企画・運営まで、図書に関する様々な活動に取り組んでいます。現在、展示台には50冊ほどの書籍が表紙を向けてディスプレイされていますが、ほとんど貸し出し状態となり生徒たちの注目ぶりがうかがえます。
さらに、鮮度の高い本を集めた「楽しみ読みのエリア」を新たに設けました。壁面には湾曲の絵本架を設置して国内外の絵本を配架。中高生の図書館に絵本コーナーを設けるのは珍しいことだと思いますが、心を耕し養うという意味において「絵本」もまた、大切な出会いの1冊となるはずです。温もりある平湯モデルの図書館は、多彩な書籍を通して生徒たちに心の栄養を補給してくれる貴重な空間といえるでしょう。
学びを充実させる「調べ学習のエリア」
一方、図書館奥には新たに「調べ学習のエリア」を設け、蔵書を用いて授業ができる環境を整えました。本校では、創立者マザー・ジュリーの教育理念を生かし、体系的な教育プログラム「MJプログラム※」を展開しています。それらは単に知識の吸収を意図するものではなく、自ら学び、考える力を育むことで、将来を生きる力を培うことを目指すものです。従ってテーマも「宗教」「人権・平和」「国際理解」等、グローバル社会を生きる生徒にとって重要かつ普遍的なものです。これらの取り組みが、今後図書館を活用して行えるようになれば、書架から参考図書を探して調べ、グループでディスカッションをしたり、発表し合うといった活動につなげることができます。さらに、同じテーマで中高生が読書をして、互いに感想を述べ合うグループ学習も実施していますが、こうした活動を図書館で行うことで、さらなる教育の充実が期待できると考えます。
このように「楽しみ読みのエリア」と「調べ学習のエリア」が新たにできたことで、本校が目指す理想の図書館に向けて大きく前進することができました。今後も生徒と本との出会いをサポートすると同時に、多様な使い方に応じられるよう資料や新しいコーナーを整え、 自ら学び、考える力を育む図書館へと進化を続けていきたいと思います。
※MJプログラム/創立者、マザー・ジュリーの名にちなみ、感謝する心・学ぶ心・支え合う事心・奉仕する心を育む中学校の総合学習プログラム。
[上]調べ学習のエリア/中高一貫校の学びを、より充実させる場となる調べ学習のエリア。書架や机など使用できる家具は旧図書館から移設し、効率的な改修を実現した。
[下2点]2室に分かれていた旧図書館の様子。
ノートルダム清心 中・高等学校
所在地:広島県 施主:学校法人ノートルダム清心学園
設計・施工:株式会社大林組
「SCENE96」2018年12月3日発刊より