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事例紹介:福井県立奥越明成高等学校
高校の統合を機に理想へ向け変えていった図書館。
2011年4月に開校した福井県立奥越明成高等学校は、福井県初の総合産業高校である。奥越地方の大野市と勝山市にあった職業系専門高校が統合され、4学科2コースの学校として生まれ変わった。少子高齢化が進む奥越地域では、地元の専門高校による人材育成がもたらす地域活性化に大きな期待を持っている。
旧専門高校を改修して設置された奥越明成高等学校では、多様な学科で活用できるように、さまざまな施設・設備の拡充がなされた。今回は、その中から大きく変わった図書館を取りあげて紹介する。総合産業高校については竹吉睦校長に、図書館については宮越佳代子学校司書に話をうかがった。
地域の未来を共に創っていく「総合産業高校」
多様な職業系学科を設けて地域に応える県立高校
工業系・福祉系の大野東高校と商業系・家庭系の勝山南高校は、県立高等学校再編整備により、大野東高校へ一体化する形で統合されて、奥越明成高等学校となりました。機械科、電気科、ビジネス情報科、生活福祉科(生活コース、福祉コース)の4学科2コースを設置し、モットーは“地域に親しまれ、地域に信頼され、地域に必要とされる学校”です。前向きな論議や試行を重ねて総合産業高校という新たな形ができあがっていき、2014年3月には最初の卒業生が巣立っていきました。しかも、143名の卒業生のうち6割の就職希望者全員が職を得て、その4割が奥越に就職しました。この取り組みは成功したと言えますが、その裏には、地域の方々の労をいとわない大きな支えがあるのです。
4学科2コースの生徒たちは3年間持ち上がりですから、学科の結束は強くなります。これを縦糸に、横糸として学年会を設けて生徒間のコミュニケーションが偏らないようにしました。この学年会の集まりや学校祭の打合せなどを図書館で行っています。新しい図書館は明るく入りやすいので気軽に利用してほしいと思います。
生徒が地域で体験することも大事な学びのひとつ
各学科・コースでは、机上の勉強のみならず、1年生から専門実習が始まり、2年生で全員がインターンシップを経験します。例えば生活福祉科福祉コースは、「介護福祉士養成施設・介護員養成研修事業者」の指定を受けていて、2年終了時に介護員の終了証明書を手にし、卒業後ほとんどの生徒が介護福祉士の国家試験に合格します。これらの実習の大きな力となっているのが地域から招くプロの外部講師です。
また、生徒たちは、「大野市産業と食彩フェア」など地域のイベントや祭りに積極的に協力をし、行政の商工観光課などが企画する事業へ参加をしています。生徒たちがこういった場で体験することは、勉強している知識や技能がどう社会とつながっているかを知るうえで必要だと思います。そして、生徒たちの活動を地元の新聞が取りあげてくれることも、地域社会に知ってもらうという意味でとてもありがたく感じています。こうした期待に応えるために“地域を創り出す学校”という意識をもって取り組んでいきたいと考えております。
県に理解してもらえるような改修要望書を作成。
統合により蔵書が倍増し改修を要望
新たな高校づくりのためにさまざまな改修が進められ、図書館もその一環でした。工業系・福祉系の大野東高校に商業系・家庭系の勝山南高校の書籍が加わることになり、ほぼ2倍の所蔵スペースが必要になりました。勝山南高校の専門書は必要でしたし、他の書籍を選別し廃棄するにしても旧図書館の許容量を超えてしまいますので、改修の要望書を県へ提出しました。旧図書館の家具がすべてスチール製で、狭くて暗い印象でしたので“せっかく新しくするなら平湯モデルの家具を入れて明るくあたたかな図書館にしたい”ということが私たちの願いでした。
周りの方たちの協力で鍵となる要望書を作成
蔵書量はすでに把握済みでしたし、基本は1クラス分の生徒が利用できるプランとして、要望書に載せる配置図を何案も作りました。要望書の作成と提出にあたって気をつけたことは、学校側が県の担当者に説明するために、“その内容を確実に理解してもらえるような”要望書を作ること。私たち司書が説明するわけではないからです。“なぜ、広くするのか、木製がいいのか、平湯モデルがいいのか”に始まり、“壁面書架は備品と同じ仕様にしたい”など家具についても詳しく記載しました。
県の担当者はとても協力的でしたし、委託された大野市の設計事務所にも平湯モデル家具の意図するところを理解していただきました。2011年9月に要望書を提出し、2012年4月に認可され、5月に設計図を提出という急な展開になり、私の原案を専門家に図面化してもらいました。このように、さまざまな方たちの理解と協力で要望が通ったのだと感謝をしています。
制約を乗り越えて誕生した木のあたたかな図書館。
改修上の制約などが図書館構想のネックに
新図書館は、コミュニケーションエリア、司書スペースと楽しみ読みのエリア、調べ学習のエリアに分けられています。しかし、改修上の制約や予算とスペースの都合で、さまざまな不具合が生じました。例えば、コミュニケーションエリアは図書館の外にありますし、司書スペースと楽しみ読みのエリアの間には耐力壁があります。コミュニケーションエリアを見に行きたくても、留守にする図書館内が気になります。また、耐力壁が邪魔をして、司書スペースからは楽しみ読みのエリアが見通せません。インターネットは、スペースの都合上で専用コーナーは断念し、LANケーブルで繋げられるように情報コンセントを数カ所に設定しました。
制約があったからこそ工夫してより良い場づくりを
コミュニケーションエリアのオープンスペース部分は、現在、早朝に登校する生徒たちの休憩所や、お昼時に隣の購買でパンを買って食べる生徒たちのカフェスペースになっています。教室以外に生徒たちの居場所をつくりたいと考えていたので、ちょうどよかったと思います。
耐力壁については、県の担当者のアイデアで、耐力壁を覆う木格子の下に鏡を貼りました。写った手前の景色を格子の向こうの景色と錯覚し広く見えることをねらっています。また、耐力壁の一部を、テーマ展示スペースとして活用しています。興味の対象が多様になっていく高校生に注目してもらえるような展示に、これからもチャレンジしていこうと思います。スペースや予算などの制限があるからこそ、考えていろいろな工夫をしましたし、本当に必要なことを選別できたのかもしれません。
図書館は、話し合いの場も自分だけの場も持てるように家具を配置していますので入りやすく居心地のよいスペースとなり、利用する生徒や先生が増え続けています。
「SCENE82」2015年7月発刊より