トピックス

事例紹介:豊田市立浄水北小学校

ガラス面を大きく使った入り口は、中が見通せるので入りたくなる。

学校と地域が共に学び育つ「地域共働型学校づくり」。

2014年4月に開校した浄水北小学校は、「地域共働型学校」という新しい教育のあり方を、豊田市で初めて具現化した新設校である。
地域共働型の学校づくりに対する考え方や設計計画、学校づくりのプロセス、そして中心的施設である「メディアセンター」について、株式会社東畑建築事務所名古屋事務所・副所長の瓦田伸幸氏、設計部主任技師の柱健太郎氏と設計部技師の久保久志氏にうかがった。


(株)東畑建築事務所 名古屋事務所 執行役員 副所長 瓦田 伸幸 氏


(株)東畑建築事務所 名古屋事務所 設計部 技師 設計担当 久保 久志 氏


(株)東畑建築事務所 名古屋事務所 設計部 主任技師 ワークショップ担当 柱 健太郎 氏


学校教育と地域活動の連携による「地域共働型学校」。


学校・地域・行政・設計者がコラボで学校づくりを推進。

「おいでんの樹」/ 「おいでんの会」の かわら版。2011~ 2013年にかけて1 ~ 1 6 号が発刊さ れた。

第13回「おいでんの会」のワークショップでは、図面を使って外構 設計コンセプトを確認し、中庭デザインゲームなどを行った。

 「地域共働型学校」は、身近な公共施設である学校を、教育の場であるとともに地域活動の拠点にもなるようにとらえ直した複合施設です。豊田市は、この学校づくりを地域と「共働」で進めています。「共働」は、共通の目的を実現するために各々がその役割と責任のもとで“自主的に働くこと”を意味します。その方針に沿って、浄水北小学校の学校づくりは、地域の方などで構成された整備検討会「おいでんの会」と共に進められました。
 整備検討会では、建物の設計というハード面と、“こんな活動がしたい、こう使いたい”という要望などのソフト面の議論を、計画の初期段階から並行して進めました。設計チームとしては、会で出た要望をすぐ形にして次の検討会へ出すなど、効果的な進行を心がけました。さらに、こうしたプロセスをスムーズに運営するために、設計担当者の他にワークショップ担当者を選任しています。

体験型プログラムを重ねて、地域共働型の学校を実現。

敷地内の里山で、子どもと大人が一緒に行った林 分調査。

 ワークショップ初年度は、学校づくりのコンセプトと学校と地域が連携する活動について議論し設計へ反映しました。次年度以降は行動しながら学校づくりを進めるという方針のもとで、子どもと大人たちが共に敷地内にある里山の整備活動を行う「じょうすいのもり隊」や工事工程に組み込んで行われたトイレのタイルデザインワークショップなど、さまざまな体験型プログラムを実施しました。里山の整備計画づくりのワークショップでは、「林分調査※」に子どもたちも参加しています。
 学校と地域をつなぐ校内拠点と位置づけた「地域支援室」は、計画の当初から重視され、そのしくみづくりや地域開放と子どもの安全性の実現などについて、さまざまな議論と検討が重ねられました。最終的には正門を入ってすぐの一角に設置され、地域の方で編成されたコーディネーターが常駐し、学校との打合せや地域利用の管理などに活用されています。


トイレの施工ワークショップでは、地域から募集したデザイ ン案を、子どもと大人が一緒にモザイクタイルで表現した。

完成したトイレの壁面に貼られたモザイクタイル画。


地域支援室は、学校と地域をつなぐ地域活動の拠点とな る部屋。正門や職員室に近く、学校を見守る位置にある。

地域支援室内のホワイトボードには、芝生の水やりボラン ティアの依頼など、学校と地域の相互の情報が書き込まれる。

開校後の活動展開や正しい施設運用を見据えて。

 開校後は、設計者などの専門家と共につくり上げた施設を、学校と地域が主体となって育てていかなければなりません。そのためには、施設に対する私たちの考え方や使い方を学校や地域が継承していけるようなしくみ作りを残していくことが必要になります。例えば、エコ校舎として設けた「風の塔・風のやぐら」についても、自然換気を促すという考え方やその使い方をしっかり受け継いでほしいと思います。まず先生方にレクチャーすることが有効で、いずれは先生方が自ら子どもに教えられるようなプログラム※を考案中です。さらには学校のメッセージが、子どもたちを介して家庭から地域へと広がっていくことを期待しています。

※林分調査/エリアを決めて樹種や木の太さなどを継続調査する。今後の林づくりに活用。
※プログラム/東畑建築事務所設計部技師の久保久志氏は、教育の発展に貢献した教育プログラム・教材等の業績により、2014年日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。受賞対象は豊田市立土橋小学校(2010年にエコ改修実施)


東の中庭は、2つある中庭のひとつで、広いデッキテラスに子ども たちが遊び集う。

西の中庭は、地域開放時の休憩スポット、学童保育の外 広場、読書広場として使う。


「メディアセンター」は、学校と地域の新たな学びの拠点。


1~2階が吹き抜け空間のメディアセンターは、手すりを格子状にして見通しを良くし、1階との一体化を図っている。

「メディアセンター」を人と情報が集まる場に。

 図書館は、人と情報が集まる場所で利便性が重視されますから、普通教室・特別教室・管理エリアおよび地域支援室の各ゾーンから来やすい学校の中心に設置しました。また、子どもたちが開放感のある場でのびのびと学べるよう、「メディアセンター」を1~2階の吹き抜け空間としました。2階は現在、調べ学習に使うパソコンが置かれていますが、2クラス同時に調べ学習ができるような準備をしています。体験型プログラムで育んだ子どもたちの学びが調べ学習で深まるといいですね。
 整備検討会では、地域への「メディアセンター」開放、ボランティアによる読み聞かせや見守りなど、さまざまな活用イメージが出されました。地域支援室を「メディアセンター」の近くにという意見も出たほど、地域にとっても大事な存在です。支援室には、地域の方や学校の先生方が自由に協力者の募集ができるよう、ホワイトボードが置かれています。支援活動は始まったばかりですが、すでに、「メディアセンター」で自習する子どもの見守りボランティアなどの活動が始まっています。


調べ学習のエリアでは、3年生の授業として、クラス担任と学校図書館司書の先生たちによ る図書館利用のオリエンテーションが行われた。

オリエンテーション時に、絵本とお話のコーナーで、学校図書館司書の読み聞かせを楽し む3年生の子どもたち。


子どもたちを呼び込みやすく館内も見渡せる湾曲したカウンター。奥の司書スペースは、サー ビスや管理がしやすいよう広さを確保し、読み聞かせのボランティアとの打合せにも使う。

2階は、パソコン教室と隣接する参考図書スペースの間が開放できるようにしてあり、将来 はメディアセンターで同時に2クラスの調べ学習の授業が可能となります。

子どもたちで賑わう図書館で、本を介した人と人の交流を。

 浄水北小学校の参考にするため、立命館小学校の〈平湯モデル図書館〉を見学に行きました。閲覧スペースが手前にある従来の学校図書館と異なり、入ってすぐ見やすい書架がある“本が子どもに語りかけてくるような配架” に、新鮮な驚きを覚えました。また、書架が低く抑えられていて見通しがよいので、子どもたちが本を探しやすいうえに司書さんが管理しやすいと思いました。
 従来の図書館のレイアウトは、館内で完結させるという考え方がまだ主流ですが、図書館周りのオープンスペースも含めて計画すれば、より本に親しみが持てる空間になります。この「メディアセンター」が、本を介して、人と人、人と情報、人と知識のコミュニケーションができる場に成長することを願っています。


思わず本を手に取りたくなる湾曲書架。

自由読書の時間を楽しむ子どもたち。

axonaAICHI 「SCENE 78」2014年7月発刊より


関連するエントリー

最新のエントリー

エントリー一覧へ >