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事例紹介:豊田市立寺部小学校・寺部こども園
子どもたちが活きる、学校と地域の共働。
2016年4月に開校・開園した寺部小学校・寺部こども園は、豊田市の「学校と地域の共働」プロジェクトのひとつである。新施設の移転・改築先は、豊田市西部の住宅地と田園地帯が重なるところにある。そして、小学校とこども園を同一敷地内に合築するという市で初めての試みが行われた。
2012年から地域と連携して始まったこの合築計画について、建設委員会アドバイザーの名古屋市立大学教授・鈴木賢一氏と、設計担当の(株)青島設計室長・旗手康信氏にうかがった。
学校と地域、そして小学校とこども園の連携を、同時に見つめ直すプロジェクト。
区画整理や子ども数の増加などで、小学校とこども園を移転・改築へ
寺部小学校・寺部こども園が計画された背景には寺部地区の区画整理があって、小学校とこども園の移転・改築はその一環でした。宅地化が進んで児童数や園児数の増加が予想されることや、県道の拡幅で校地が狭まるなどの事情もあって移転が決まりました。そして、旧小学校および旧こども園とは別の敷地が用意され、幸いなことに工事による授業の支障もなく改築が行われました。
140年余の歴史を持つ寺部小学校の学区には祖父母から孫世代まで通った住民が多く、その歴史を継承しつつ新しい校舎をどうつくるかに関しては、地域から大きな期待が寄せられました。豊田市も、古い歴史を持つ寺部地区を子育てしやすい新しい街として整備したいと考えていました。
地域をよく知る住民が、学校と共働で子どもたちの支援を
豊田市が2010年から進めてきた「学校と地域の共働」プロジェクトは、教育の場であり身近な公共施設でもある学校を、地域の活動拠点として捉え直すことを目的にしています。
私は、“公立の学校には主がいない”ということを、大きな課題として考えてきました。子どもたちは6年間で卒業し、先生や市町担当者も数年で変わっていきます。実は、学校のことを一番よく知っているのは、地域住民や地域に住む学校卒業生なのです。例えば、学校づくりの課題のひとつ「安全」についても、学校に任せると監視カメラに頼ることになります。学校から監視される地域住民から見ると、何か腑に落ちないものを感じるのではないでしょうか。ですから、地域と学校が連携的な関係を保つことが最適な方法であると思います。
現在は、学校づくりの計画段階から地域住民が参加して話し合う“ワークショップ”が行われます。寺部小学校・寺部こども園のワークショップでは、学校と地域の共働の可能性が検討され、「地域の歴史や知恵を学ぶ」「学校と地域が交流できる」「子どもたちの学びを支援する」「子どもたちの生活環境を維持する」という考え方に集約されていきました。
組織の違いや立場の違いを超え、関係を見直して連携する
今回のプロジェクトの大きな課題は、合築における“小学校とこども園の関係性”でした。組織が違う上に、軸となる事業目的はそれぞれ教育と保育、そして預かる子どもたちの年齢層も異なります。施設計画としては、フェンスで分けることが無難と考えられ、ワークショップではその意見が主流でした。最終的にフェンスは地上部に設置されましたが、2階部分は、子どもたちが行き来できるように接続されることになりました。子どもたちは成長して多くが隣の小学校へ行きますし、やはり園・小連携という発想も必要となります。
また、学校と地域の連携については、可能なことのひとつに「地域の歴史や知恵を学ぶ」があります。自分の街にある歴史的な題材を総合学習に活用できると、地域と学校の接点は増えていくと思います。
私は、ワークショップで大事なことは、参加した地域の方々が話し合いを通して「共有感」を持つことだと考えています。参加者の約8割が寺部小学校卒業生だったこの地区の方々は、移転・改築計画がもち上がったことで、学校と地域の関係を見つめ直すことになりました。大変な作業もありましたが、将来につながる地域コミュニティのシンボルとして、学校を再確認するいい機会だったのではないでしょうか。
子どもたちの活動と地域のサポートを支える、多様な施設計画とハイブリッド構造。
園・小の交流を視野に入れ、景観にも配慮した施設計画
基本計画時に今計画と類似の合築施設を見学しましたが、小学校とこども園は、事業の運営時間や目的が異なり、合築しにくい施設だと思いました。しかしワークショップでは、子どもたちの成長を見据えて小学校とこども園の交流を進めたいという意見も多く聞かれました。これらを踏まえて、1階は小学校とこども園を分離し、2階は交流スペースで繋ぐ施設計画にしました。
また小学校には、地域開放と地域の防災拠点という役割があります。新施設の正門はひとつで、入ってすぐ左手に地域開放ゾーンを設けました。体育館は、校舎の隅に配置されることが多いのですが、今回は、校舎の中央に計画しています。地域開放や防災拠点の意味合い以外に、子どもたちが “屋根のある広場”として自由に使えるようにというコンセプトもありました。
教室については、周囲の景観と調和する設計を心がけました。横向きに繋がっていく従来の教室は、外からは壁のように見えます。寺部小学校では、特別教室などを縦向きに配して分節化し、周辺の住宅地のスケールに合うように配慮しています。また、多くの教室にハイサイドライトを採用し、一方向からの採光ではなく、均質な光
と風通しが得られるように計画しました。
木材、RC、鉄骨の良さを活かした、ハイブリット構造で理想の教育環境に
豊田市は地元産の木材を使って建物をつくる木造化・木質化を推進しています。この地域の木材は、径の細いものがほとんどで、住宅用に多く流通している12㎝角・長さ4m以下の木材には適していますが、学校など大型公共施設には適しません。
また、従来のRC造鉄骨造と同等の開放感・通風・採光を確保し、2階の床はRC造なみの遮音性を確保するなど質の高い教育環境が求められました。今回の教室はオープンスクール形式で計画され、無柱の開放的な空間が必要になります。授業の形態も多様化、座っているだけでなく動き回ることも増えてきています。
これらの問題を解決し理想の教育環境を実現するために、木材、RC、鉄骨の良さを活かした「ハイブリッド構造」を採用することにしました。床は遮音性の高いRC造、地震力を負担する外壁等もRC造、無柱空間を実現する梁は鉄骨造、それ以外の柱・梁はすべて木造としています。併せて、一般流通材の12㎝の角材を中心として組み合わせ束ねる「組柱工法」や「束ね梁工法」を採用し、地元の角材を使って大型木造建築を実現することができました。
子どもたちが活動しやすい場を用意し、それを支える地域の力に期待
子どもたちが活動しやすい“回遊できる動線計画”にして、その動線上にメディアセンター、交流室、中庭、ピロティーなど多様な空間を点在させました。低学年のゾーンは、教室、中庭、低学年用図書館をセットして、自由に連続して使えるように考えました。
中・高学年のゾーンには、教室やメディアセンターがあります。メディアセンターには、平湯モデル※図書館家具を採用しています。家具のレイアウトや配架に協力していただいた平湯文夫氏と事前に面談した際に、「家具のレイアウトと空間づくりが連動できるといいね」という話が出ました。それに応えるため、中央の調べ学習のエリアが子どもたちの居場所となるよう、上部のハイサイドライトから光が差し込むように設計しました。
2階の交流室は、小学校、こども園、地域住民が利用する場です。そこには、図書スペースが設けられ、地域の方々が子どもたちに読み聞かせなどすることを想定しています。寺部地区では、以前から読み聞かせのグループが活動しているそうです。そして、予想以上に活用されているのが、1階の二施設間に設けたピロティーで、小学校やこども園のお母さんたちの井戸端会議でいつも賑わっています。
そして、地域開放ゾーンに設置された、学校支援地域本部の地域コーディネーターは、近くにある「守綱寺」の方に決まったそうです。こうした地域の結束力や独自性が、これからの施設運用をサポートしてくれることに期待しています。