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事例紹介:能勢ささゆり学園 能勢小学校・能勢中学校


施設一体の小中一貫教育で、自立し生きる力を育む。


町内の学校を再編して誕生した、施設一体型小中学校

能勢中学校 校長 後藤るみな氏

能勢小学校 校長 萱野喜一郎氏

 2016年4月に開校した能勢ささゆり学園は、能勢町内にあった6つの小学校と2つの中学校を再編してできた施設一体型小中学校である。「再編にあたっては、能勢町学校教育検討委員会を設置し、教育環境のあるべき姿について議論を深めてきました。その結果示された基本方針が、小中学校をそれぞれ1校に統合し、校舎を同一敷地内に建設して小中学校で連携した教育を推進することです」。そう語るのは、教育委員会で再編整備の基本計画に携わり、中学校長に就任した後藤るみな氏。小規模校には地域と密着した家庭的な雰囲気の中で子どもたちと教員が深く関わり、学年を越えて交流できる良さがある。この特長は継承し、再編によって整った環境のもとで学力の向上を促すことで「統合して良かった」と思える学校づくりを目指すという。
 こうして2016年1月、旧おおさか府民牧場跡地の広大な学校敷地に、鉄筋コンクリート3階建て、東棟・西棟・共用棟の3棟からなる新校舎が完成した。1階は管理諸室のフロアとして職員室、保健室、給食調理室、特別教室等を配置。2階に小学生教室、3階に中学生教室、共用棟にはランチルームをはじめ、音楽室や情報学習センターが配置されている。「さっそく施設一体型の特長を生かし、小学1年生から中学3年生までの縦割りグループで遠足やランチ、掃除などを共にする『ささゆりタイム』を設けました」と小学校長の萱野喜一郎氏。今後も小中連携の教育を推進したいと語る。
 そして新校舎の小中共用施設の中で、後藤、萱野両校長がとりわけ期待を寄せているのが、図書室と自立学習室を一体化した情報学習センターである。


図書室の入り口すぐの展示台には、自然豊かな 能勢町の四季をテーマにしたディスプレイ。子ど もたちを館内に誘い込みます。

司書と教員との連携でダイナミックな学習を目指す

 情報学習センターの図書室は、旧小中学校から選りすぐった約2万冊を所蔵し、入室した瞬間に木の温もりが子どもたちを包み込んでくれる。「書架は旧学校のものを利用する予定でしたが、教育長にお願いして平湯モデル※の導入がかないました」と後藤校長。休憩時間や放課後には、調べ学習のエリアで本を読んだり宿題を教え合ったり、ドーナツベンチで絵本を読む子どもたちの姿が見られる。自ら学びたい、勉強したいという子どもたちの意欲を盛り上げる図書室になったと両校長の評価は高い。
 さらに図書室の奥には、ガラスパーティションで仕切られた自立学習室がある。パソコンを配備した40席のブースは、個別学習に集中できる場となっており、放課後に週2回、中学生を対象にした「自立学習塾」を開催している。これは後藤校長が教育委員会在任中に試行して同学園に導入したもので、費用は民間の学習塾に比べて格段に安く設定。映像授業を活用して個別の習熟度に合わせた学びを実施している。
 学校図書館には「読書センター」「学習センター」「情報センター」という3つの機能が求められるが、図書室と自立学習室を備えた情報学習センターは、それらを満たす十分なインフラであることがうかがえる。さらに、同町初の学校司書として石塚成子氏が着任。「子どもたちを入り口で迎え入れるディスプレイといい、利用しやすく工夫された配架といい、石塚先生のおかげで図書室の魅力が引き立っています」と萱野校長。今後、各教科における学校図書の活用や情報教育との連動などダイナミックな学習を展開することで、子どもたちが自立し社会で生き抜く力を養成する。それが両校長にとって最大の課題とのことであった。


[左]中学生や高学年が低学年に読み聞かせをするなど、小中連携教育の推進を通して学年を越えた交流が深まっている。 [右上]ドーナツベンチと調べ学習エリア。奥にはガラスパーティションで仕切られた自立学習室がある。 [右下]楽しみ読みのエリアでは多彩な図書の読み聞かせが実施され、ネイティブの先生による英語絵本の読み聞かせもある。

「心の居場所」となり、心の成長を支援する空間に

能勢ささゆり学園 情報学習センター 司書 石塚成子氏

 小学生には週に2日、好きな本を読む「朝読書」の時間が設けられ、また、各学年に週1回または隔週で図書の時間が割り当てられています。これらの読書活動の推進により、小学生を中心に読書習慣が定着。毎朝子どもたちが、図書室の前でカギが開くのを待っているのが、日常の風景になっています。また、高学年が低学年に、中学生が小学生にといった、子ども同士で読み聞かせをする取り組みもあります。そのため休憩時間の図書室は、低学年の子どもたちが高学年や中学生に甘えたり、本を探してもらうなど、ほほえましい姿が見受けられ、小中学生の交流空間にもなっています。
 読書活動以外に、各教科における学校図書の活用にも取り組んでいます。例えば社会科の授業でゴミの処理を学ぶときには、環境関連の絵本や書籍コーナーを設けたり、町の図書館から借りるなど、授業を補完する資料の整備を心掛けています。
今後は教員の皆さんとのコミュニケーションを図りながら、幅広い学年や教科で教育課程との連動ができるよう注力していきたいと考えています。


 ほかにも文部科学省は、『いつでも開いている図書館、必ず誰かいる図書館』を実現し、悩みを抱える子どもの『心の居場所』になるよう要請しています。能勢町においても支援を必要とする子どもは少なからずいるので、司書が常に図書室にいる重要性を痛感しています。
 その点、平湯モデルの家具には人を迎え入れる温もりがあり、低いカウンターは子どもと会話がしやすい形状。入り口の展示台には自然豊かな能勢町の四季をテーマにしたディスプレイとともに関連図書を展示し、子どもたちの気持ちを盛り上げ、ワクワクしてもらえる演出を心掛けています。
 これからも心の居場所としての図書室を維持しながら、学習面の成長も支え、すべての子どもたちに読書の楽しさを伝えていきたいと思います。


小学生347人と中学生237人が 通う丘の上の新校舎。校舎の窓 からは、四季折々に豊かな自然 が一望できる。

能勢ささゆり学園 能勢小学校・能勢中学校
所在地:大阪府 施主:能勢町
設計:株式会社大建設計



「SCENE 89」2017年4月発行より


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