研究所だより

平湯文夫の研究所だより No.99


『世界でもっとも貧しい大統領ホセ・ムヒカの言葉』という本が出ました。

スピーチ部分を訳した人が、日本語のネイテ ィブでないこともあってか、訳文がいまいち。 せっかくのすばらしい内容がスーッと入っていくようぜひ手を入れてほしい。

 今年の7月19日発行なのに、もう4刷目で、しかも品切れで20日も待たされました。本が売れなくなったといわれているのに、こんな本がそんなに売れていることに希望がもててきます。1年ほど前に、『世界で最も貧しい大統領』(?)という絵本も出ました。
日本のちょうど地球の裏側あたり、ブラジルの南隣りにウルグアァイという国があります。そこの大統領をこの3月までつとめた人の話です。
3年前、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで、国連の「持続可能な開発会議」が、世界の首脳級以下が集まって開かれました。そこでの彼の演説が終わると、会場は総立ちになって、喝采はしばらく鳴りやまなかったというのです。
彼は、上院議員をつとめる奥さんの農場の中の平屋の3部屋しかない家に住み、警備の警官二人のほかは家政婦もおかず、来客もここに迎えて、お茶も自分で用意するそうです。自らトラクターを操って、奥さんと共に野菜や花をつくっているとか。
自分で運転する1987年製のビートルと少年時代から乗ってる自転車が愛車。大統領官邸にも住まず、専用車を使わず、国際会議などエコノミークラスを利用し、他国の大統領専用機に乗せてもらうこともあるとか。給料の90%を慈善事業に寄付し、残りからまた、自分の農園に貧しい子どもたちのための農業学校をつくるために貯金もしているそうです。まさに「暮らしは低く、思いは高く」です。


会場総立ちとなった大統領ムヒカの演説の内容は――。

 「欧米をはじめとする富裕社会の過度な消費と競争が、地球を壊している。この残酷な競争でなり立つ消費社会の中で、「みんなで世界を良くしていきましょう」という、共存共栄の議論がそもそも成り立つのでしょうか。我々の前の巨大な危機問題は、環境の危機の問題ではありません。ここに集まる私たちの政治の危機の問題なのです。政治は、この過度な使い捨ての消費と競争の社会を変えることにこそとりくまなければならない」。ほんとに胸のすく話です。こんな政治家がいたのだ。しかも、この演説に、世界の政治家たちが総立ちになって喝采を送ったとは。使い捨ての消費と競争でGDPをあげることしか考えることのできない人たちばかりが政治家になるのだと思っていたのに。
 日本にも、「もったいないが地球を救う」と訴えて県知事になった人がいたし、アフリカには、同じようなことを言ってノーベル賞をもらった人がいたように思います。
 私は、戦争や核を最も憎みますが、地球環境破壊はそれ以上に憎みます。地球そのものが破壊されては元も子もないからです。ところが、その地球環境破壊には、善良なる市民千人の内の999人までは、毎日、日常的に、積極的に加担していると思っています。レジ袋を考えるうごきがやっと数年前から始まりましたが、それくらいのことは、笑っちゃうほど微小なことです。
 私の少年時代までのことを言って信じてもらえるでしょうか。私の家から、1年間に、ゴミとして出すものは、どう思い出してみても、茶碗皿のかけたもの2,3個分とガラス窓の割れたもの1枚あるかないか。それきりでした。生ごみから屎尿まで、すべて家庭菜園に使いました。プラスチックがなかった時代で、家庭菜園もけっこう広かったからできたことではあります。しかし、今でも、生ごみから屎尿まで、すべて、町で処理施設をもち、すべて肥料にかえている自治体をいくつも知っています。私は、生まれてこの方ずっと、年に一度ぐらい忘れた時以外は、ポリ袋をもらったことはありません。
 とにかく、私の子ども時代に比べると、今、家庭から出るゴミの量はすさまじい。工場などから出るもの、ましていわんやです。家の前の小川の水を、洗いものにも風呂にも使い、どじょうが泳ぎ、しじみがいっぱいとれました。農薬を使うようになって死の川になったのです。農薬でお百姓が幾人も亡くなりました。
 60年前に返すことはできませんが、せめて今のごみの量を10分の1にしたいものです。台所で食器を洗うには、亀の子だわしがあれば、たまにお湯を使うくらいで十分いけます。60年前を生きた人、知る人は、まもなくいなくなってしまいます。恐ろしいことです。
 薬もサプリメントも洗剤も化粧品も、人を救い幸せにしてくれている反面、過剰のコマーシャルにのせられるままの現状では、人のからだは深く蝕まれているはずです。
 環境を破壊し、資源、人力を浪費して、人間に不幸をもたらす最大のものは、冷戦も含めて戦争です。自動車、家電製品をはじめ、使い捨ての過度な消費と競争でしか国を豊かにすることはできないと考える今の世界の政治を変えないことには、地球は守れないというのがムヒカ大統領の考えなのでしょう。(かなりむきになってしまいました)


この記事は、2003年7月1日から平湯文夫先生が自身のホームページ「図書館づくりと子どもの本の研究所」に掲載した研究所だよりを再編集して転載したものです。


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