研究所だより

平湯文夫の研究所だより No.77


広島→名古屋→東京 新幹線を乗りついでの旅

 新しい図書館が計画されているという広島の私学へ。私学には、どこも、ほんとうにいい図書館をつくりたいという当たり前の熱い思いがあって嬉しくなる。つづいて名古屋へ。愛知のスタッフや家具製作所の人たちや設計事務所の人たちとの3つの勉強会など。そして東京へ。
 山口百恵をはじめ幾多のタレントを送り出している日出学園の引っ越しの終わった平湯モデルの図書館を訪ねて今後のことなど話し合う。夕方から、インドネシアに本を送る会の相棒内田さんと2人で、ベトナム料理をいただきながら準備の話合い。翌日は大怪我をして治療中の学友を励ます会に13人集まる。羽田空港で『スクールアメニティ』に1年間連載させていただいたボイックス社の社長さんと久しぶりにおしゃべりをして、機上に。


県立長崎図書館が移転することになった大村市の方たちとの勉強会に。

 長崎新聞の連載の中に、大村市立図書館についての私の構想も書いて、最終回を「大村市にはせっかくのこの機会に、みんなの知見を集めて、全国で最も素晴らしい市民の図書館を作りあげましょう」とむすんだのを読まれて、直接私から話をきいてみようということだったようです。
 新しい大村合築の私のプランを、分かりやすくホワイトボードいっぱいに、1辺55メートル正方形の4階の建物にして示しました。1階が大村市立図書館で、子どもの図書館と、市民のための貸出中心の図書館と、研究調査のための図書館が、この広い、全館視線をさえぎらぬ高さにおさえた木製のやさしい平湯モデルの書架ですっきりまとめられた図書館は、全国にも例がなく、かなり気に入ってもらえたようです。
 2階は、全県下の市や町の図書館をバックアップする県立図書館。原則全開架、移動でない固定書架で、常時2名の司書がサービス、管理にあたり、全県民に解放。日本のどこの都道府県立、大学の図書館にも例を見ない、30数年前にカリフォルニア大学ロスアンゼルス校の中央図書館で見て忘れられないもの。先日の沖縄の新県立図書館のための講演会では、もう少し具体的に、リアルに話して、この時もかなり共鳴していただけたと思っています。沖縄県立も長崎県立も、私の計画、設計の意図は、ほとんど開架であり、実物が眺められることです。
 私は沖縄での講演の冒頭から「資料、情報を求める人たちに応えると共に、まだ求めることを知らない人たちのニーズを掘り起こすことに力を入れる図書館をつくりあげていただきたい」と話しました。日本で市民のための図書館の革命が起きて半世紀になりますが、まだ日本の図書館員のほとんどが、「求める人たち」に応えることで精いっぱいのようです。
 「資料、情報を求める人たち」とは、研究者であり、郷土史好きの人であり、マスコミ関係者であり、本好きの人であって、全市民のとうてい1割にも満たない人たちです。
 80余年も前、ランガナタンが言った「本は使われるためにある」などまだまだで、日本の図書館員は閉架時代の意識にとらわれたままのように思われます。子どもも市民も、実物に手を触れ、眺めることで、郷土にも、人間にも、自然にも心が動くのです。郷土史好きの人だって、研究者だって、全資料を手にとって見れたら、目録で探して、1点ずつ請求して、見せてもらうより、はるかにはるかに研究心をかきたてられると思っています。「本は使われるためにある」というランガナタンの当然すぎることばの深さを知るべきです。破損、紛失を防ぐ方法、手だてはいくらでもあると思っています。
 この1階の大村市立図書館のプランも、2階の県立図書館のプランも、大村市民にも、長崎県民にも、きっと喜ばれる、断然良いものだと思うのですが、とり入れられることはないでしょうね。もし、関心をもってもらえたら、しっかりイメージをもってもらえるような分かりやすいプランに仕上げてご覧にいれるのですが。


 1人で始めた平湯モデルを、百年もの老舗メーカーの中に混って広げていくは並々のことではありませんが、入った図書館での評判もまた並々ではなく、嬉しいかぎりです。
 そこへ、昨年は、平湯モデルを扱ってくれているA社の担当者が、お子さんのために自宅に平湯モデルの絵本架をいれて大好評という話をして喜ばせてくれました。それが、今年になると、B社の担当者も、開発したばかりの学級文庫棚を入れて、7か月のお子さんがすでに絵本と棚に確かな反応を示すときいてまた嬉しいかぎりです。
 ほんとにいいものをつくりあげていくには、それだけ大変なことも多く、担当者たちには並々ならぬ苦労をかけていますのに、喜んで楽しくとりくんでもらっているようで、なによりありがたく思っています。そこへ、あまり安くもない平湯モデルを自宅に購入してもらったというのには心うたれました。そして、家庭の中に中心ができましたとまできいて、冥利につきます。


この記事は、2003年7月1日から平湯文夫先生が自身のホームページ「図書館づくりと子どもの本の研究所」に掲載した研究所だよりを再編集して転載したものです。


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