研究所だより

平湯文夫の研究所だより No.034


第2回学校図書館一泊研修会のお誘いができました。

 昨年の模様はこの「研究所だより(24)にあります。7月27、28日、
千々石少年自然の家で。参加費用は、宿泊料までいれてすべてで3,500円ほど。申込順30名まで。問い合わせは095-844-8270平湯まで。


蔵書の整理にやっととりかかりました。

 もうとっくに人生の後始末にかからなければならない歳になっているのに、なかなかそれどころでない毎日ですが、やっと手はじめにかかりました。
 それにつけても、モノのあふれる今日、お金をかけて捨ててもらわなければならないものばかり。本もご他聞にもれず。古本屋もすっかり様変わりして、「ブックオフ」に「ほんだらけ」の時代。売れるものも、差し上げて喜んでもらえるものもほとんどなさそうです。
 そんな中でも、やっぱり捨ててはいけない本があるはずだ。生かさなければならない本があるはずだと、そんな本を探しています。


昭和初期に出た葉山嘉樹の一冊本全集は、出身地の北九州豊津の図書館に。

 最近、小林多喜二の『蟹工船』が脚光をあびているが、葉山は小林や『太陽のない街』の徳永直と並ぶ昭和初期のプロレタリア文学の雄。その葉山の全集は、この改造社版をおいてないはず。豊津の図書館には既にあるはずだが、1冊はしっかり永久保存にして、自由に手にとって見れるものもほしい。
 この本は、右の写真のようにブックケースはねずみにかじられ、壊れてもいるが、背革は天金のほぼ美本。学生時代、吉祥寺の古本屋で求めたことが思い出される。


昭和8年、改造社刊『葉山嘉樹全集』 本体(左)とケース。


野田宇太郎の文学散歩ものは小郡市立図書館の野田宇太郎記念館に。

 小郡市立図書館に入ると、まず野田宇太郎記念館が目に入る。小郡市民は、図書館を訪ねるごとに、こんなすばらしい人を郷土にもったことを誇りに思うだろう。この小郡図書館ができるまで、小郡にこんなりっぱな人がいたことを、小郡市民のほとんどが知らなかったはずだ。30年ほど前、この野田宇太郎記念館といっしょに小郡市立図書館をつくることに懸命だった中村和尚を思い出す。
 ここなら、野田宇太郎ものは、複本が何点あってもいいはずだ。ところが、いよいよ送ろうとして、なごりにめくっているとのめりこんでしまう。やはり本はすごい。子どもの本に関心のある人ならたいてい知っている、宮崎県の「木城えほんの郷」の木城町は、武者小路実篤の「新しい村」の地でもある。この新しい村を野田が訪ねるところは圧巻である。武者小路の前夫人が、再婚した土地の男性と、共に年老いて健在だった様が活写されている。
 前夫人は、近年まで90何歳になって健在ときいたが、友人が2年ほど前、訪ねたときは、その住居らしきものは、無人で開放されていたときいた。


父の蔵書まで持ち歩いてきた。

 本は因果なものだと思う。しかし、いよいよ処分しなければ。
 父の本には、りっぱに生きた人を関係者や郷土の人などで顕彰するために出版した本なども何冊かある。これもまた、その出身地の図書館の郷土資料には大切なものにちがいない。自分の土地を愛して懸命に生きた人たちを郷土の宝にしないことには、都市部がりっぱで、地方や田舎はだめなところだと思う子どもたちばかりが育っていくだろう。郷土はアイデンティティの土台である。


中高校の図書館の各閲覧机の上に、こんな手づくりのブックスタンドに国語と漢和と英和と和英の辞書を立てておくとよく利用されるそうです。パイン材の木目も美しい。


この記事は、2003年7月1日から平湯文夫先生が自身のホームページ「図書館づくりと子どもの本の研究所」に掲載した研究所だよりを再編集して転載したものです。


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