平湯文夫の研究所だより No.018
長崎県時津東小の図書館教育はすばらしい。
◎平成15・16年度の長崎県教委の指定と時津町教育委員会の委任を受けた時津東小学校の「学校図書館教育」の研究発表会に参加した。研究会の表題も「生涯学習の基礎基本を培う学校図書館教育―自ら学ぶ意欲を持ち主体的に活動する子どもの育成をめざして」とみごと。
時津小の図書館教育の発展ぶりについては、その12年前のスタートのときから深い関心を寄せつづけてはきていたが、今回参加してみて、長崎県内にもこれほどのものが育ってきていたかと、驚くほどのものであった。まさに県内、だん突、全国トップグループに十分入るもので、まさに第3の教育改革の本県のみちびきとなるものができていたとほんとに嬉しい。
12年前のスタートは、学校図書館に熱心でありつづけた退職教師のボランティアから始まった。そこには、小学生の頃、新しいサービスの町立図書館ができて、そこに入りびたりで、その後も図書館に関心をもちつづけた教師がいて、図書館は変わり始めた。校長先生もしっかり受けとめて教育委員会へも要望を出し、パートの学校司書もおかれることになって充実しつづけた。
その実績が認められて、昨年度県教育委員会の研究指定にもなって、学校をあげてとりくむことにもなり、町教育委員会もしっかりバックアップ、それまで1日8時間勤務の学校司書に加えて、さらに1日5時間勤務の学校司書が加えられて2人となり、調べ学習、総合学習へのバックアップは万全となった。
この調べ学習へのバックアップを万全なものとするには、学校図書館の資料を充実させプロの学校司書をおくだけではできない。町立図書館からのバックアップが欠かせない。その時津町立図書館がまたりっぱなのである。2人の学校司書は町立図書館からも県立図書館からまでも、借りられるだけ借りての、全国のトップグループに入れるに十分な活動といえる。
学校も教育委員会も町立図書館もボランティアも力をあわせて育てつづけた10年の実績に、2年前、県教育委員会はこの指定をうけることになったということは、みごとなシナリオというべきであろう。ほんとに喜ばしいことである。この時津東小のことは、県内すべての教育委員会と学校現場にぜひ知ってほしいことだと思う。それは、県内だけでなく、九州全県にも自信をもって視察、見学をすすめていいものと信じている。
◎東京の学校図書館を3校訪ねる。まずは母校の東京学芸大学キャンパスを久しぶりに訪ねて、その欅並木がみごとになったことに驚く。そのキャンパスの中の付属小金井小学校図書館をなんとかしたいといっていた中山司書を訪ねる。
教員養成の大学や学部の付属校は、日本の教育のトレンドをその全都道府県下の教育委員会や学校に示すものであるはずなのに、ここも率直にいってご多分にもれず、とても第3の教育改革をリードするようなものとしてととのえられているとはいえそうにない。
まず、おそらくどこの国立大学付属もそうだと思うが、常駐の学校司書の定員がなく、人のいないところさえも多く、いてもPTA雇用等の臨時職員のはずである。同時に2クラス入れる広さはおろか、1教室分の広さしかないところさえ見たことがある。
校長先生、副校長先生にもお会いして、母校ではありますし、お手伝いしますから、これからの調べ学習バックアップの範を示せるような学校図書館づくりにとりくみましょうと話して帰った。
近年ずいぶんがんばっておられるときく都立高校の図書館も2校訪ねる。東京都では学校司書をなくすというひどいことが進んでいる中に、共にがんばっておられるのが目に見えて頼もしい。しかし率直に言っておそかった。中規模以上は、なんとか正規の学校司書がおかれて、小、中学校に比べて恵まれていた高校の図書館が、何よりも大切な、生徒たちに魅力的なものにする努力に欠けていたのだ。それでも、今からでもがんばってほしい。
◎今回は、思いきって文部科学省の学校図書館に関わる2つの部署を訪ねてみた。特に施設面に限って、先に作成、出版された「新しい時代に対応した学校図書館の施設・環境づくり」は、なるほど大切なことは一応網羅されているが、これだけでは、実際に新改築、改修の際のプラン、設計には十分といえない。事実全国にひどいものが次々とできている。ほんとうに魅力的な学校図書館づくりに数えきれないほどかかわってきたので、私のノウハウをどうか使ってほしいと伝えた。
二つの部署とも、仕事の山に埋もれておられる中での応対で、いきなり立ちいっての話合いまでとはいかなかったが、以後なにかのうまい進展が見られると嬉しい。
◎横浜の「みなとみらい」で開かれている「図書館総合展」に半日顔を出す。今年で8回目という、図書館関係のメーカーなどがほとんど参加する巨大なもので、埼玉福祉のブースに平湯モデルの丸テーブルや絵本架やブックトラックも展示。
◎中、高、大学の一時期をあずかってもらった義姉のところに一泊することにして、また二人で昔なつかしのところを散歩する。通り以外はすっかり変っているが、神社や公園はほぼそのままでなつかしい。その頃中学生で家庭教師をしていたT君の家を探しあてた。後に大俳優となったが残念ながら数年前若死にしてしまった。仲間たちが号泣して送るのをテレビで見た。
◎そのキャラクターがたまらなく好きな、10進分類法の考案者で知られる図書館の改革者メルヴィル・デューイの分厚い本格的な伝記が刊行されて入手できたのも嬉しい。オリジナルタイトルの「制止できない改革者」(Irrepressible Reformer)を「手に負えない改革者」と訳したのもおもしろい。